2018年末~2019年始における山の気象の記録

気象委員会

東京都山岳連盟に加盟している団体、個人会員及び一般の方の協力により、2018 年末~2019 年始における山の気象デー夕 を収集した。そのデータをまとめた資料を作成したので、気象遭難事故防止や冬山気象の研究に活用していただきたい。

>> 詳細記録 (pdf)

期間概況

今回は年末の12月下旬にクリスマス寒波が日本付近に襲来し、日本海側に当たる山岳地帯では大雪に見舞われた。

この頃、北アの剣岳に入山したパーティが、悪天と大雪によって下山が出来ないとSOSを発した遭難事故がおきた。このようなケースは、近年はあまりないが、過去には剣岳でも多くの遭難事故が発生した経緯がある。 冬山へ入山する場合には、予定行動の範囲に強い寒波の襲来が見られるかどうかを、充分に検討をしておくことが重要。

入山時には比較的に天気が良く、行動が出来て山奥に入ってしまうことが多く、そして入山の途中から強い寒波(大雪)に見舞われ、身動きが出来なくなるような事があるため、充分な気象情報を入手して検討をしておかなければならない。

なお、島崎三歩氏の「山岳通信」によると、長野県では年末に八ヶ岳において転倒などによる2件の遭難事故、新年に入って北アの栂池高原で5名のスキーヤーが道迷い、1月2日には北ア北鎌尾根で1名滑落、1月3日には北ア唐松岳八方尾根で男女2名の行動不能などがあったが、いずれも長野県警などによって無事救出された。

以上、今期間中の山の天気は全般的に荒天は少なく、冬山としては比較的に良経過した。

各日毎の気象状況(山のライブカメラと実測)

・12月26日

冬型の気圧配置が緩み、日本付近は弱い気圧の谷が通過中で、太平洋側の富士山を除いては、各山域とも雪雲がかかり、八ヶ岳でも上空は雲の多い天気となる。

・12月27日

日本付近には気圧の谷があり、一方、大陸方面からは高気圧が張り出してきている。

このため各山域とも標高の高い稜線部では、ほとんど雪雲(Cu)に覆われてきた。

・12月28日

天気図は強い冬型となり、ほとんどの山岳は雪雲におおわれて、吹雪の天気となる。

一方、富士山は冬の天気(晴天)に恵まれ、季節風の吹き出しによる「ちぎれ雲」が発生している。

・12月29日

引き続き冬型の気圧配置で、地上天気図の等圧線も日本付近で間隔が狭まり、季節風も強まってきている。

このため上信越の山域は全般に雪雲におおわれて吹雪の天気となったが、太平洋側の山域に当たる八ヶ岳では稜線部に雪雲がかかる程度であった。

・12月30日

気圧配置は冬型で、各山域では前日(29日)と同様な天気であったが、北アの蝶ヶ岳では天気の回復が見えはじめ、後には晴れてくる。

一方、信越方面の黒斑山は晴天域に入っているが、午後になって雪がちらついた程度。

・12月31日

上層約5,500m付近では、上層の気圧の谷が日本列島に近づく気配がみえ、地上天気図の等圧線が朝鮮半島を中心に気圧傾度が緩み、等圧線の間隔が広まってきた。

このため上信越方面の山域は次第に吹雪の天気も収まり、各山域とも晴れ間も広がって、晴れて来た。

・1月1日

日本付近の等圧線の間隔も広まって季節風も弱まり、冬型の気圧配置は大分弱まった。このため各山域とも昨日に引き続き晴天の所が多かったが、昼頃になると天気下り坂の兆しが見えてきた。

ライブカメラの報告によると、上越の八海山や後立山方面では、午後になると季節風の吹き出しによる雪雲が広がりはじめた。

また、登山者の報告によると、北ア燕岳では午前中は晴天であったが、午後には雪になった模様。

下界の中房温泉付近では朝のうちは晴れていたが、午後になって雪が降り始めた模様。

一方、北アの蝶が岳の麓付近(徳澤園)でも、朝のうちは晴れていたが、次第に雪模様の天気となる。

そして、午後には上高地でも降雪の天気となる。

なお、山陰の大山では晴天の報告はあるが、場所が判らず山の天気か平地からみた山の天気が不明。

以上の晴天は一見「疑似好天」のように思われるが、「疑似好天」時の好天は今回よりもスケールが小さく、好天継続時間も短いものをさしている。

「疑似好天」については正式な規定はなく、ほぼ数時間程度の好天継続現象を指しているものである。

・1月2日

日本付近は弱い気圧の谷が抜け、大陸方面からは高気圧が張り出してきている。このため季節風の吹き出しも始まり、北ア方面の山域は雪雲がかかるようになって、天気は悪くなってきているが、北ア方面以外はまだ晴天域に入っている。

・1月3日

大陸高気圧が移動性を示しており、日本付近の冬型気圧配置も緩み、各山域も全般に天気は良くなったが、まだ一部の山域(上高地、尾瀬など)では降雪の所もあった。

・1月4日

大陸方面から移動してきた高気圧が日本付近を広くおおい、各地の山域や平地でも全般に晴天となり、この時期としては絶好の登山日和となる。

富士山の気温も3日頃から上がり初め、5日にはピ-クを示している。

(文責 城所 邦夫)