遊びっぱなしにしない、僕らがトレイルの守りびとになる

日本山岳耐久レース(以下、ハセツネCUP)がおこなう国立公園内のトレイル整備をご紹介。
御前山から避難小屋に向かうルートは浸食がひどく歩きにくかったが、大会主催者、環境省、東京都環境局、東京都レンジャーが協調し昨年10月から国立公園内での整備が進められた。

全ての利用者には整備にも関心を持ってもらいたい

 日本におけるトレイルランニングは、国体の山岳競技が土壌となり、マラソンブームを経てレジャースポーツとしても盛んになった。しかし、楽しむだけに特化している傾向も見られる。ハセツネCUPはトレイルランナーとしての「責任」を強く感じており、整備された道があってこそ楽しみが生まれるとして、トレイルランナーには整備にも関心を持つよう訴える。

何か恩返しがしたいと考える人が集まった

里山の整備活動をおこなう東京ハセツネクラブのメンバーたち

 多くの大会ではレース後の整備が一般的だが、ハセツネCUPはこれまでも年間を通じたトレイルの保全活動をおこなってきた。しかし国立公園内のトレイル整備は制約も多く大会としては実行されなかったが、昨年の大会終了後から行政機関と調整を進め、持続的に登山道の保全に関わることとなった。またトレイルへのダメージを最小限に抑えるための開催基準設定も求められるのでこれからの課題でもある。

2022年のハセツネCUPは時より強く雨の降る中でおこなわれた。大会で傷んだ箇所が出たため利用者の安全確保とトレイル保全のため、主催者が主体となり10月より三頭山から順次作業を開始するなど保全活動を一層推進していくことにした。

勝手に木を切ったり、道を作ったりするのはNG

この日の活動を見守る東京都環境局と東京都レンジャー

 ハセツネCUPでは開催地の里山から国立公園内の広範囲で活動をおこなっている。登山道をふさいでいた大きな倒木除去などは通年を通しておこなわれる。しかし倒木を撤去するといっても、登山道には所有者や管理者が必ずいるので、整備の前には、関係各所に申請や許可をもらわなければいけないのです。木の1本1本にも所有者がいるわけですから、勝手に撤去するのは実はNG。これがなかなか複雑な事情があって、行政や企業だったり個人だったりする所有者や管理者を見つけるところからはじまる。

誰もが通る登山道だからこそ安全に、美しく整備していきたい

 今回ご紹介する活動は、惣岳山近くの倒れたロープ杭を全て立て直すこと、御前山の2カ所に約30段の木柵階段を設置すること。整備費は大会予算から充てられ、人材の確保、機材や資材を調達し、準備段階で各関係者との協議や調整が必要であり、承諾を得られてから実行に移すまでに2ヶ月かかった。

活動日となった12月の週末には、東京都環境局と東京都レンジャーも視察に訪れ、活動に賛同する8名のボランティアによって木柵階段を造成した。約40メートルに渡る木柵の造成は、誰もが安全に山を楽しむことができる環境整備に一役買った。秩父甲斐多摩国立公園・奥多摩エリア内のトレイル整備がハセツネランナーとしての責任を果たす第一歩であることを改めて感じた。

惣岳山山頂近くのロープ杭は長い間倒れたままだった
凍結融解(霜柱)による浸食とガーリー(深く掘れた状態)浸食が発生していた山頂付近
太い丸太と木っ端(枝等)を使用して浸食部に踏み面を設けた
山頂から避難小屋方面に続く登山道は、ガーリー(深く掘れた状態)浸食の区間が続く
木材の高さは20センチ以下を基準として、体力がない人が下りるときに恐怖感を持たない高さとした

木柵階段が出来るまでの工程

山中で数十本の丸太を運ぶのは重労働
丸太を設置した状態。写真から登山道が深く侵食していることがわかる
丸太を設置後は、隙間を大量の木っ端(枝等)や土で埋めていくことで完成する