2006年度第4号

都岳連2世紀への展望

専務理事 若村 勝昭

 まず冒頭に、この都岳連通信に寄稿させていただくにあたり、都岳連の創設から今日までの発展の道程を開いていただいたご先達の皆様とご支援いただいた皆様に、深甚なる敬意と謝意を表させていただきます。

承ったところでは、はじめ数会の山岳会の皆様が一同に会して東京都山岳連盟を結成し、当初はある山岳会の事務所の一隅をお借りして事務局を置いて活動を始め、やがて加盟団体も増加。事業も登山教室や自然観察会、映画会、講演会と種類も参加者の規模も大きくなり、当時の日山協の間借りの事務所では手狭になるほど拡大の一途だったとのこと。やがては、いまや海外選手も参加し2000人を超 えるアスリートが奥多摩の峰々を駆け抜ける 山岳耐久レースもスタート、東京都のみならず日本全国にその存在と事業が認知される山岳団体に成長しました。

これらは、すべてもちろん都岳連を支えてくださった会員、賛助企業、関連団体の皆様のご支援の賜物ですが、さらに、創設から今日まで倦まずたくまず都岳連の活動をボランティアで行っていただいた専門委員や理事のお力です。 これまでの都岳連を支えられた委員や理事 の方には、すでに物故された方、第一線から引かれた方もいらっしゃいますが、今もなお、事業の先頭に立って汗をかいて東京都民の安全登山啓発や自然保護にあたっていらっしゃ る方も大勢です。その方々はすでに20年から 30年も都岳連活動を支えていらっしゃいます。 その方々にとって、今回東京都山岳連盟が社団法人格を獲得したことは、きわめて感銘深 いことと推察いたします。

それらの方々によって数年前に「大都岳連構想」が立案され、爾来その実現に向けての活動が続けられました。今回の社団法人の設 立はその「大都岳連構想」の一環であり大きな支柱でもありました。同構想には登山学校 の創設や加盟団体会員の集うサロンの設置などまだ実現していない事項もありますが、まずは大きな壁を越えたのではないでしょうか。

社団法人格の取得は、ヒトにたとえれば未成年者が成人になって選挙権や治産などの法的権利が持てるようになった反面、各種の法的義務や責任が生じることに似ています。 社団法人東京都山岳連盟は、これから法人 として動産・不動産の取得や、公的契約や登記の権利が発生しました。また、各種の事業を開催するにあたってその社会的信用度はいっそう増しました。これまで、任意団体として実務上は大きな障壁はなかったものの、組織としての肩書きがなかったが故の、すこし遠慮気味の意識が解消されました。社団法人 として、肩を張ってその存在、その事業、そ の帰属を社会にアピールできるようになりました。 都岳連は、まさに創世記を過ぎ、表題に掲 げた紀元2世紀に入ったのではないでしょう か。 しかし、権利だけが発生したのではなく、 これまでかならずしも対応しなかった義務と責任も多く負されるようになりました(もちろん社会全体や事業の参加者への全般的責任と義務はこれまでにもあり、その遂行と対応 はおこなわれていました)。

すなわち、監督官庁に対する、各種の報告、届出、認可、納税などの義務です。関係官公署は東京都、法務 局、税務署、労基署、社保事務所など多岐に亘ります。これまで、都岳連内の監事の監査や総会の審議で完了したことが、公の監察が必要になりました。届出には税理士などの専門家のサポートを受けなければならない事項 も多くあり、経費も必要になりました。これらは、行ってみるとやや予想を上回る仕事量 とコストでした(始まったばかりですが)。 そのほかにも、今後想定以上の大きな義務 と責任が生じてくることと思います。社会への全般的責任もいや増してくることと思いま す。

また、都岳連内部においても、構成する会 員の皆様や支援してくださる企業の皆様、事業を展開するフィールド(地元)の皆様への義務と責任の比重は高まることと思います。 これらの遂行には、資金と労力のコストが掛かります。これからの都岳連は、これらのコ ストを賄いまたゴーイングコンサーンとしてさらに発展していくために経済的基盤を築い ていかなければいけないと思います。

たとえ ば、基本的には各種の事業は専門委員や競技 会スタッフのボランティアに依存することは変わらないにしても、必要な経費は都岳連と してまかない、個人の自弁は減少したいと思 います。また、事業や活動の社会的認知度を 向上させ、多くの参加者を得るために広報広聴も活発化しなければなりません。事務処理 や通信連絡においてはIT化に対応していか なければなりません。もちろん、「大都岳連構想」で未達成の課題、なかでも登山学校やサロン創設も懸案事項として残っています。

都岳連に団体や個人会員が加盟することのメリットも最近希薄になってきました。都岳 連共済との連携のあり方も再構築しなければ なりません。 そのほか、微減する登山人口への対応も必 要になってきます。 今後の課題はまさに山積といえます。そして、いずれの達成も多くのコストを必要とす る課題です。しかし、都岳連にはこれまでの ご先達の皆様が築いてこられた有形無形の資産(アセット)があります。「都岳連」とい う組織、事業、関係するスタッフ、名称その ものも、大きなアセットです。これらは概念的のみならず、これからの運用次第によってもっと大きく成長した経済的アセットになり ます。

紀元2世紀を迎え、これからの都岳連の活動に参加する我々は、これらのアセットをい かに運用し成長させて、次代に引き継ぐかが 問われていくのではないでしょうか。そこか ら生み出されるベネフィットによって、活発 な都岳連活動を支え発展させていくことが課せられた使命だと思います。

これまで、きわめて清新で無償の精神によ って支えられ運営されてきた活動に、経済的 な思想を持ち込むのは、ご先達の皆様にとってはご不快な感もあるかと思います。そのようなお考えとも協調しつつ、今後の発展のあ り方を考えて、社会にその存在感を認知され る社団法人東京都山岳連盟を築き上げていきたいとも思っています。 これから、あらためて紀元2世紀の都岳連 構築の模索と議論と試行が始まります。関係 するすべての皆様の積極的なご意見とご指導、 そしてご支援を切望いたし、筆を擱きます。