2009年度第4号
進取の気象で
専務理事 亀山健太郎
東京都山岳連盟では、加盟団体会員あるいは個人会員の方々を対象とした、安全で楽しい山登りに必要な技術、知識を習得していただくための講習会、研修会を多々開催しております。これら講習会、研修会に参加して安全登山を目指したいという目的で、多くの未組織登山者、一般個人の方々が受講されています。個人会員の方々は、技術、知識の習得だけではなく、山のパートナーを探せる魅力もあるようです。
登山の楽しみは多岐にわたっています。厳しい自然を相手に限界に挑戦するクライマー、都会の喧騒から逃れ、山の自然に踏み入り心身を癒し、明日への活力を養う週末登山家。野鳥・野草を求める自然観察派、雪の魅力を存分に味わいながら山間を滑り抜ける山スキーヤー。沢水に打たれながら遡行し、星空を見上げながらのビバーク。近年隆盛のトレール・ランニングなど、それぞれに山に求める姿、形は違っていますが、多くの登山者が自然のなかに身を置き、山を楽しんでいます。
しかしながら、今日の社会問題である少子高齢化傾向が、都岳連加盟の山岳会は言うにおよばず全国の山岳会にも及び、所属会員減少、会員の老齢化問題から、会としての維持が難しく解散に追い込まれる山岳会も散見されるようになりました。人は歳を重ねるにつれ思考が硬直し柔軟性に欠けてくるのは、山に登る人たちだけに見られる現象ではなく、至極一般的なことですが、我々山岳会を運営し、維持発展させる立場からみると、問題は少子高齢化傾向のみとは思えず、どうも何か見落としているような気がしてなりません。
日本山岳協会は今年創立50周年を迎えます。日本勤労者山岳連盟も同じく今年50周年を迎えます。東京都山岳連盟は昨年、創立60周年を迎えました。それぞれが、山を愛する人たちを組織化し、安全登山の啓発を講習会、競技会等を通じて行ってまいりました。そして現在の登山ブームを創造してきました。この半世紀を越す活動を可能にしたのは、登山人口の増加、四通八達した高速交通機関網、インターネットの普及、高機能登山・登攀用具の出現、登山道の整備、より快適な山小屋、百名山ブーム、気象衛星による的確な予報など、といえましょう。加えて、山岳保険の普及、都道府県の警察、消防の救助体制拡充、各山岳会の遭難対策・救助隊の連携なども忘れてはなりません。
はたして、この登山ブームは何時まで続くのでしょうか。少子高齢化を迎えた現在、過去50~60年の輝かしい実績を脇息にして安閑としてはいられない時代を迎えているように感じています。昔ながらの山登りのスタイルが依然として主流のなか、まったく違った登山スタイルで山を楽しむ若い女性たちの台頭もあります。若者の山に対する考え方も変化してきています。昔は山中をランニング・スタイルで駆け抜けるトレイル・ランナーに訝しい眼差しをむけていた登山者も、登山道を駆ける若人(中高年もいますが)の一団を目の当たりにすれば、時代の変化を肌身に感じるでしょう。
このような潮流のなかで「昔取った杵柄」だけで山岳連盟や山岳会を組織し運営に係わっていくのは難しいのではないかと危惧しています。よほどの「進取の気象」をもって時代の趨勢に機敏に対処していかないと、今後あるべき正しい方向を見失う恐れがあります。
まだ、都岳連の要職に就いて日も浅いのですが、是々非々の立場で、都岳連に参加していて良かった、あるいは是非とも参加したいと思われる組織にしていくよう努力を重ねてまいります。
皆様方のご指導とご協力を切にお願いする次第です。