2010年度第3号
課題への挑戦 -都岳連の遭難対策、救助体制を考える(後編)-
理事 遭難救助隊担当 廣川健太郎
前回、三つの課題を挙げました。12月18日信州飯田にて北島救助隊長ほか、救助隊有志が集まり、忘年会にあわせて今後の救助隊活動について検討会が行なわれました。
今後の取組みはまだまだ構想段階ですが、やりたいことは沢山あります。以下、新春初夢として紹介させて頂きます。
課題1・・・各種情報の共有と遭難救助隊の強化、ネットワーク作り
課題3・・・都岳連、各委員会間の関係強化
情報の収集と共有
長期山行が行なわれる年末年始や五月連休、夏休みは、昨年度から救助隊、遭難対策委員会参加メンバー、各委員会参加山岳会や活動が活発な山岳会の山行計画を情報収集し、情報提供頂いた会には取り纏めた計画一覧をお送りし情報共有しています。この年末年始は約50、約200名の山行計画でしたが、約250 ある加盟団体からするとほんの一部にすぎません。
これまでは、顔の見える範囲で確認をしていましたが、今後は都岳連HPで情報提供を呼びかけ、公開OKの計画は概要をHP上で紹介、(これは救助隊の範疇ではありませんが)面白い山行報告はHP上で紹介してもらうことなど、加盟団体に情報発信してもらうことも考えてみたいところです。また、年度を通じた活動や遭難事故発生の状況について各山岳会に報告協力を依頼し、公開可能なものについては情報共有を図っていく、これもメールやHPをうまく使うことが効率よく情報を共有する鍵となります。
救助隊員の大募集?と隊員研修の充実
来年度に向け、遭難救助隊は北島隊長のもと、都岳連内の主要な委員会、山岳会関係者に救助隊員への参加、登録を呼びかけていく予定です。
単に登録してもらうだけでは参加しても手ごたえがないので、救助隊のレベルアップを図るため、年四回、隊員研修を行ないこの内容を充実させていきます。具体的には春と秋の二回は奥多摩でのイベント(開山祭、パトロール)の行なわれる週末に、岩場でのレスキュー、ロープワーク研修、搬送を中心に研修を行ないます。遭難対策委員会で行なっているレスキュー講習は対象を初級から中級レベルとしているため、この研修は岩場で起きる可能性のある代表的なトラブルに焦点を絞っています。
今後の救助隊研修は基本をおさえた上で、応用的、より実践的な技術についても自主研修をしていきます。私個人としては、岩場で起きる様々なトラブルのパターンを整理し、それぞれに対処する方法も整理したいと考えています。現役でバリバリ登っている若手クライマーの皆さんに研修に参加して有意義と感じてもらえるレベルを目指します。
そして、夏と冬の二回は南北アルプスや谷川岳、八ヶ岳で季節の山、本番のバリエーションルートの登攀にあわせ、テーマを決めた研修、勉強会を行ない、各地域で遭難救助にあたられている現場第一線の方との交流も進めていきたい。都岳連遭難救助隊と各山域の遭難救助に当たられている方々とのネットワークを作り、深いものにしていきます。
現場を核とした組織のネットワークの発展
ここからしばし、個人的な話をさせて頂きます。
今年の7月頭、小屋開き準備中の佐伯成司さんの経営される剣岳真砂沢ロッジに伺いました。富山県警警備隊の小隊長で友人の横山さんから夏の研修中とうかがっていましたが、警備隊の皆さんと色々と情報交換をし、研修内容なども教えて頂くことができました。
私は会社勤めをしていますが、登山に関するより高度な技術を習得するため日本アルパインガイド協会(AGSJ)の研修検定を受け所属しています。9月にはAGSJが技術提携しているフランス国立スキー登山学校(ENSA)で2週間の短期研修を3名で受講してきました。全員が都岳連加盟山岳会メンバーです。AGSJよりも規模の大きい日本山岳ガイド協会(JMGA)のクライミングを対象とするガイド資格保有者を含め、高度なレスキュー技術を研修してきている人材、あるいは堤信夫さんのように警察や消防のレスキュー研修を日常的に行なっているスペシャリストが実際には都岳連内にはいるのです。隊員研修の充実、平日の出動を考えると専業ガイドやスペシャリストの方々にも是非遭難救助隊に参加、あるいはアドヴァイスをしてもらいたいと考えています。
AGSJでは昨年度から群馬県警谷川岳警備隊の方々と技術交流研修を行なっており、この12月は救助隊の忘年会兼検討会を行った飯田から沼田まで 300kmを移動して研修に参加してきました。今後は群馬岳連の救助隊など、岳連の救助隊も交えたものとしていければと考えています。
富山県警山岳警備隊の研修は夏と冬に剣岳周辺で行われますが、ENSAで学んできたことのいくつか、実践的なレスキューや安全確保に有効な技術について、もっとも雪深い厳しい山を活動の場とする最強といわれる警備隊の方にもフィードバックできたらと考えています。現状では救助隊の中核は30台中盤から 50台前半までのメンバーで構成されていますが、救助隊研修により、隊員の相互理解やチームワークの醸成、また内容の充実により若手クライマーの皆さんにも隊員登録してもらえるようにしていきたいと思います。
個人的な交友や活動のことを紹介しましたが、個人でできることは限られています。私や堤さんなどの個人的なネットワークや蓄積を都岳連救助隊、現場を核とした組織のネットワークとし、関係をより発展的なものにしていきたいと考えています。
課題2・・・地域の山の遭難対策への取組みとネットワーク作り
東京奥多摩での遭難事故を減らすため、新しい取組みとして他府県の取組みの事例調査をし、有効と思われる対策について警察消防や環境省事務所などに提案、働きかけていきたいと思います。
調査情報収集先としては、例えば関東近県では栃木県那須山域で道迷いを減らすため、あの手この手の対策をとり、実際に道迷いが激減したそうです。滋賀県の比良など近郊の山で沢登りなども行なわれている奥多摩と性格が似ているエリアの遭難事故内容や事故対策なども参考になるのではないかと思います。
毎年7月に行なわれる全国山岳遭難対策協議会に全国の山岳遭難に関わる関係者が集まりますが、ただ参加して発表内容を聞くだけでなく、ここに参加される方及び各山小屋関係者など、遭難対策に関わる関係者の情報共有や意見交換の人的ネットワークを作っていくのも面白いのではないかと考えています。
最後に・・・人材の宝庫を目指して。
学校の部活動、若年層のクラブ活動から始まるスポーツと違い、山やクライミングは働き、家庭をもつなかで趣味として息長く楽しむものですが、一方でプレーヤー、指導者としての実力が分かりづらく、本当の指導者あるいはプロとしてレベルの高い活動をしている人が少ない商業化の度合いが低い世界です。
世代論、組織論をいうと岳連の組織活動は山岳団体の活動が商業化していない分、勤労の一線から退いた世代の知恵と趣味に使える時間に頼らざるを得ません。
一方で新しい技術の習得や指導、遭難救助などは現場の一線に立つ現役、できれば技術レベルも高い人材も入っていないと、停滞し保守化、陳腐化しかねません。基本的に技術というのは上に向かって開かれ、進歩していくものです。例えば短い期間の講習会で教えられるのはこの範囲ときめ、それしか取り組まないのでは発展はありません。技術的に保守的な人が組織内でいつまでも場をしめ、ボスで居続けると新しい意見や人材を排除しようとするようなことも起こりかねません。
日本の山岳界はなんだかんだと言っても、日本山岳協会を中心に都道府県連のみならず、今後はガイド組織や日本ヒマラヤ協会、あるいは日本勤労者山岳連盟までも大きく纏めていく必要があるのではないかと思います。
人口最大、おそらく人材も一番沢山いる東京都山岳連盟が闊達な組織であり、新しいことに取り組めなければ、公益社団法人化を目指す日本山岳協会が発展していくことは難しいのではないかと思います。ここ何年か岳連活動に参加して思うことですが、利益を追求し、育成と活性化のための普通に人事異動が行なわれる企業と違い、都岳連のような組織が闊達な組織であるためには、例えば気象や遭難対策など、興味を持つ分野に深く入ることを基本としつつも、委員長や担当理事などは出身者で固めない、閉じ篭らないこと。横の交流をし、第三者的な視点からの意見を聞く耳が大切だと思います。
最後の構想(妄想)です。遭難救助隊を都岳連、日本山岳界の発展を支える魅力ある組織、人材の宝庫、供給源とすること。これを目標に北島隊長はじめ、皆で組織として力を合わせて取り組んでいきます。
これを読んで遭難救助隊に参加してみたいと思われた方、是非事務局までご連絡下さい。また各会のこれぞという、山、クライミングに熱心な方に是非拙文をご紹介いただきたく、宜しくお願いします。